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2010年8月28日 (土)

聖戦

島村匠/聖戦

△ Cimg0139

手応え充分!陰謀小説の新たな地平だ。

と、帯に書いてあるがこれは称賛しすぎだな。

ネタは好いと思うが、尻すぼみな感はいなめない。

手嶋龍一の「ウルトラ・ダラー」にも云えるんだけど、出だしは世界的な広がりを見せる展開なのに、後半になると国家と国家の戦いというより、個人と個人の戦いという程度の規模になっていく。

これはチベットの二大活仏(ダライ・ラマ、パンチェン・ラマ)のうち、パンチェンの転生者とされる子供を確保しようと、中共とチベット亡命政府(背後にCIA)の追跡劇である。

なぜその子を確保せねばならないのか。

チベットといのは、ダライとパンチェンが相互に権威を持つことによって体制を築いていて、どちらが欠けてもチベットの民にとっては困る存在なのだという。

そのうち、ダライ・ラマはインドに亡命政府を樹立し、中共からの分離独立運動を起している。

そうなると中共としては、もう一方のパンチェン・ラマを捕り込んでチベット自治区を統治しようというわけである。

したがって、パンチェンの転生者と目される子供を亡命政府に確保されると、中共側はチベットの混乱を抑えるための権威がない状態になってしまう。

そんな中、日本に入国したインド国籍の母子が行方をくらますという事態が起きる。インド政府は、この親子に“麻薬密輸”の嫌疑がかかっているとして捜索を始めるが、中共は転生者確保にインドが動きだしたのだとみる。

はたしてインドはなぜチベット亡命政府を保護するのか。ダライ、パンチェンの資産にあるのか。たんなる中共との政治的対立にあるわけではないのか。

これを読んで、チベットの歴史に興味が湧いてきた。

ところで、この小説にはもう一つの背景がある。日本の天皇制に絡む二人の男の対立である。

著者は「一九八九年の覚書」から書きだしているのだが、これを読むとあらためてこの年は激動の年であったことが分かる。

その年の一月七日午前六時三十三分。

日本では、今上天皇裕仁が十二指腸部の腺癌によって死亡。八十七歳であった。

二月十五日には、ソ連軍のアフガン撤退が完了。

六月四日未明、民主化を求めて北京の天安門広場に集まった学生や一般市民に対し、中共は軍による強制排除を敢行。

八月二十四日、ポーランドで社会主義国初の非共産政権が誕生。

十月七日にはハンガリーが共産主義を放棄、西欧社民党型の「社会党」に脱皮を決定。

そしてついに十一月九日、一九六一年以来東西を分割していたベルリンの「壁」が撤去されることになった。

ルーマニアも十二月二十五日、政権にあったチャウシェスク大統領夫妻の処刑によって「民主化」を強行。

そして、この物語の発端ともなるのがパンチェン・ラマ十世の死亡である。

すごい年である。美空ひばりも手塚治もこの年に亡くなっているのだ。

昭和を代表する人たちが、まるで昭和天皇に引っぱられたかのように。

吉本隆明が昭和天皇について語った言葉が印象的であった。

すごい業を持った人だったんだな、と思う」というようなことを云っていたが、これほど昭和天皇を的確に表現したものはないと思ったものである。

これは活仏信仰など非科学的だといって否定する中共と、チベット亡命政府の対立構造を通して、日本の天皇制を語っているように読める。

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コメント

テルミーさんは、島村さんのファンの方なのでしょうか。
「マドモアゼル」興味湧いてきました。

すごい出来事のオンパレードもキチンと整理して書ける作家。

歴史物って島村さん得意なのか、気づいたら
食い入るように読み込んだりしてます。
キツイ表現もあるんですけどね・・・。
最近出た「マドモアゼル」はかなり没頭しました。
緻密ですし、島村さんの真摯な仕事ぶりを十二分に感じました。

そんな島村さんの評論をしてるサイト、あんまり無いんですが、
見つけたので貼っておきます。
http://www.birthday-energy.co.jp/

「マドモアゼル」に関しては極上の国際サスペンスだそうで。
これからも期待できそうですね!!

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