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2011年12月21日 (水)

犀の角たち

犀の角たち 佐々木閑:著

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大蔵出版 ,2006

読後感:△

 【科学とはなにか?仏教とはなにか?まったく無関係にみえるこの問いの根底にある驚くべき共通点を、徹底した論理性だけを用いて解き明かす、知的冒険の書。】

 科学と仏教には共通点があるとする見方は、仏教徒の側からはよく指摘がある。実際どうなんだろう。大抵の宗教が科学に擦り寄って、信者の獲得を目指してるだけのようにも見えるが。

 この著者は、科学者を世界一かっこいい人たちと思い、科学に魅せられたのだそうだ。オレも、十年前くらいになるかな、「フェルマーの最終定理」って本を読んだ時は、数学者ってのはまったく別次元にいってる人種だなと、憧憬の念を抱いたものだった。

 尤も、あの本は数学者の伝記として読めたから好かったのであって、数式だらけの専門書に耐えられる上等な頭は持ち合わせてはいないもんで、あっさりと分を弁えた生き方を選んで今日に至る。

 が、この著者も云ってるように、頭の軟らかい子供には、数式をただ詰め込む教育ではなく、数学がどのように発展してきたかという“歴史”を、数学者たちの伝記を通して語っていけば、もっと子供に数学の魅力を伝えることができるのかもしれない。

 して、この本ではあるが、正直なところ、特段新しい知見を得られるという本ではなかった。“徹底した論理性だけを用いて解き明かす”と帯にあるが、解き明かしているとまではいえないだろう。これは“論”ではなく、“感”だと思う。

 分量としては、科学(進化論・数学・物理学)を語っているほうが多い。いったい、何を目指してこれを書いたのかは、こう云っている。

 両者の個々の要素の対応に関しては一切無視した。(中略)

 視点は常に、科学と仏教それぞれが目標とする世界観である。(p4,序文)

 しかし、「科学と仏教が目標とする世界」って何だろうか。科学はまぁ、真理を発見することと、それを応用して文明の進歩をもたらすことなんだろうけど、佛教はどうだろう。困ったことに、佛教と一言で云っても、無数の宗派がある。

 著者の云っている科学と共通する佛教とは、釈尊の時代の佛教ということなのだ。この時代の佛教こそ科学と目指している世界観が共通していると考えているようである。

 解くべき問題は違っていても、仏陀と科学者は同じことをしている。瞑想して真理を知るという、この点で、科学者と仏陀の間に違いはない。(p2,同)

 天然の法則を解き明かすのが科学だとするなら、佛教は生き方を説いたものだろう。この世はなんで存在するのかとか云った、証明不可能なことについては釈尊は語っていないはずである。平たく云うと、超越者を設定せずに世界を語る姿勢に、それを感じているってことなのだろう。

 

 自分の知力で宇宙の真理を知るという、その一瞬を経験することのできる科学者は、その時に人間としての最高のしあわせを手に入れるのだ。(p2,同) 

 

 自力で真理を掴むものはしあわせ。そして著者は、同じように瞑想し真理を掴んだ人として釈尊を見ている。、それはいいとして、釈尊時代の佛教は皆が出家しなければできない生き方であることは分かっているようだ。

 釈尊時代の仏教と、大乗仏教に優劣がつけられないと言った理由はここにある。釈尊時代の本来の仏教は、自分の生活のすべてを投げ出して、なにもかもを修行一本にかけていく、ある意味恵まれた境遇にある人たちの宗教である。それは科学と共通性を持つほど合理的でスマートで都会的である。できるものなら、そういうカッコいい生活を選びたい。しかし、そういう決意が心に生じる以前に、私たちの生活はすでにいろいろなしがらみでがんじがらめになっている。そんな中で、我々に日々の平安を与えてくれるのは、不合理ではあるが穏やかで、説明はできないが暖かい、そういった超越者の宗教である。合理性だけで人生を全うできるのならそうしたい。それは決して実行不可能な夢まぼろしではない。釈尊が、そして多くのすぐれた科学者たちがその道を行った。しかし、そうしたくてもできない者を拾いあげ救いあげる超越者の宗教は、これもまた人間社会になくてはならない大切な一機能なのである。(p237,第5章 そして大乗)

 まぁ、おマンマ食べていくには稼がにゃならんわけで、稼ぎを産む経済的な仕組みが変わらないと、瞑想に耽っていられるような人生は無理だろうな。 しかし、皆が科学者になれるわけでも、皆が釈尊になれるわけでもないからこそ世の中は退屈でなくすんでるんだとオレは思ってるんだが。

 個々の章は佛教史・科学史ですね。多分、著者はもっと構想を煮詰めて、熟成させてから世に問うた方が深いものが書けたと思う。著者の科学感、仏教感を、論になるまで煮詰めてから、両者の共通性を書いていれば、もっと読み応えある本になったと思うけど。

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