« テロマネーを封鎖せよ | トップページ | あした、世界のどこかで »

2015年4月 8日 (水)

オイディプス症候群

オイディプス症候群  笠井潔:著  出版社: 光文社(2002 読後感:☆                            

Photo                                                     【探偵小説の原点「矢吹駆」シリーズ、待望の最新作!エーゲ海に浮かぶミノタウロス島。不思議な建造物ダイダロス館に集まった十人の男女は、ギリシア神話をなぞった装飾を施されながら次々と殺害されていく…。カケルが示唆する孤島の連続殺人の「本質直観」とは…。】

矢吹駆連作にのめり込むきっかけとなった作品。この連作の5作目である。

まず読後感としての結論を云ってしまうと、これは反則ではないのかということがひとつ。そして長い。物語の構成として、必要ない記述が多すぎると感じた。

ひとつ目の感想だが、探偵小説というからには謎解きを楽しむ事が第一に目的としてあるはずである。それに登場人物たちの個性が「立っていれば」尚良い。登場人物で云えば、この連作の主役というべき矢吹駆である。この男は謎に包まれている(本書から読み始めたため)。謎多き男というだけで、引き込まれる要素にはなる。が、この男、ほとんど陰に隠れて姿を見せないのである。謎解きを他者に譲りわたしているわけだが、それを引き受けているのが、ナディアという女性だ。科白の多さでいったら完全にこちらが主役と云っていい。それでこのナディアやら、他の人物らが、互いに疑心暗鬼になりながら、「このなかの誰が」犯人なのかと推理をし合うわけである。ところが、ここに難点があって、なにしろこの連作の主役は矢吹駆であるということになっているわけだから、最終的に謎を解いてみせるのはこの男なんだろうと思って読むことになるわけだ。つまり、ナディアらの推理は「違う」と感じつつ、長~い物語を付き合うことになるのである。勿論、こちらも読み手として推理しながら付き合っていくのだが、こちらの期待としては、それなりの役柄(科白の多さなど含め)を与えられている主要な登場人物のなかから、真犯人がでてきてほしいのである。「こいつか!」と、著者にしてやられた感を味合わせてほしいのである。

「反則ではないのかこれは?」と云いたくなる真相である。これでは3つ星は付けられない。この犯人が明らかになった時の拍子抜け感から思うに、著者の狙い(おそらくこの連作そのものの)は、哲学談義、あるいは論理的ということについて語るべき方法として、推理小説という形式を選んだだけなのかもしれない。評論という形式でこれをやればもっと短く語れたように思うが。

それと、矢吹駆の推理を、「現象学的推理」としているのだが、これと他の人の推理との違いが明確に分からないのである。あるひとつの事実に対する解釈は無数にありえるとし、その無数に許されている解釈の中から真実を探り当てるのは現象学的本質直感という事なのだが、これを際立たせることができていないのではないかと。これができなければ著者の試みは成功したとは云えないだろうと思う。すくなくとも自分には、この違いが伝わらなかった。最終的に明らかになるのだが、連続殺人のきっかけを与える事になってしまった“manicureの色”を、“血の色”と勘違い(複数の解釈を許す事象にたいして)したうえに、さらにその現象を“神の啓示”と解釈してしまったことによるもの、と語られることで、著者の云わんとしている事の片鱗が見えたかなとは思う。

自分としては、推理の展開よりも、序盤と最後の駆とナディアの哲学談義が印象に残っているという始末である。人を殺す事の是非を問うナディアは、“殺人は「してはならない」という立場”をとるのにたいして、駆は“倫理は『殺してはならない』というところになんかない。たんに殺さない、たんに殺せないという事実が、倫理的なるものの根底にはある。『してはならない』という当為から出発する倫理は最終的にはグロテスクな倒錯に行き着く”と云う。この科白だけでも読む値はあったし、なにより、もう少しこの著者に付き合ってみるかという気にはさせられたのであった。

« テロマネーを封鎖せよ | トップページ | あした、世界のどこかで »

書籍・雑誌:☆」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/181624/59563072

この記事へのトラックバック一覧です: オイディプス症候群:

« テロマネーを封鎖せよ | トップページ | あした、世界のどこかで »

2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

最近のトラックバック

無料ブログはココログ